承久の乱と文学

「国語と国文学」令和3年11月号を取り寄せて読みました。「承久の乱と文学」という特集号です。論文は9本、うち3本は後鳥羽院の和歌に関するもので、題詠と実感、自讃歌、隠岐新古今集を取り上げています。そのほか、慈円の和歌と願文、無住が運と果報とをどう考えていたか、近年再発見された「承久記絵巻」の解題、承久記の慈光寺本・流布本の方法など広い分野のテーマが立てられています。軍記物語講座第1巻『武者の世が始まる』(花鳥社 2020)では日本史、後鳥羽院、承久記の3本柱しか立てられませんでしたので、これだけの拡がりがある特集が組まれたのは嬉しい。

巻頭論文は前田雅之さんの「戦乱と撰集―両者の相補的関係論序説―」で、前田さんは以前から、勅撰集は平和の産物ではない、むしろ戦乱や政争があって必要とされ、成立すると説いてきました。いつもは難渋な文章を書く人ですが、今回は(本誌の活字のおかげもあるか)読みやすくなっています。勅撰集が権力者の理想と業績を実証するために編まれるからには、極めて分かりやすい関係でしょう。

資料にも運命というものがあるなあ、と思わせられたのは、「承久記絵巻」の再登場とそれを世に知らしめる役割を担った長村祥知さんの仕事です。軍記の絵画資料を調査していた際、承久記にも絵巻はあるはずだが、と思っていましたが、綺麗なかたちで再登場してくれてよかった。いつか現物を目の当たりにしたいと思いました。

9本の論文、殊に和歌の論考を読みながら、多様な国文学研究の方法を見ることができ、楽しめました。中でも興味深く読んだのは、渡邉裕美子さん「慈光寺本『承久記』の和歌―長歌贈答が語るもの―」です。和歌研究にはこれだけの武器が揃っているんだなあと思いました。なお同誌9月号には原田敦史さんの慈光寺本承久記論があります。