中世文学66号

中世文学会会誌「中世文学」66号を読みました。2020年10月の講演2本、研究発表論文3本、そして新企画の小特集「中世文学と教育」と題する論考4本です。この小特集は有益でした。その中、軍記物語を扱った2本については、別途触れたいと思います。

圧巻は田仲洋己さんの講演録「新古今歌人の時空意識について」。定家が生涯に関わった百首歌や2つの勅撰集に現れる地名(歌枕)を展望して、それらに籠められた定家の国土観・歴史観を素描するもの。『新古今集』は光孝天皇以降歴代の天皇に漏れなく触れることによって、和歌と貴族社会の歴史を通覧し得たが、『新勅撰集』では承久の乱の影響によりそれが叶わなかったため、名所を通じて日本の国土を示し、代わりに「百人一首」の天皇詠の配置によって歴史像を提示したのだ、という。蒙を啓かれました。

小特集は2015年の文科省通達、2022年から実施される新学習指導要領に直面し、また高校生たちの古典離れをめぐる議論を踏まえて、中止となった春季大会の代わりに企画されたとのこと。4本とも力作ですが、私は小山順子さんの「本歌取りの読解と普遍性に関する授業実践ー古典和歌からポップソングまでー」と、吉野朋美さんの活動報告「古典文学ワークショップの挑戦ー日本文学アクティブラーニング研究会の活動を通してー」に舌を巻きました。学生になって小山さんの授業を受けてみたい、と思いました。

尤も、こういう素晴らしい発想の授業は、先生の固有名詞つき、年に数回の限定つきのパフォーマンスだろう、という気もします。古典の授業は一種の語学学習でもあり、連日面白くなくてはいけないわけではない。羨ましいのは、田仲論文から小山・吉野論文に至るまで、和歌文学研究はこんなに幅広く、新たな課題に挑戦するパワーを持ち続けている、ということ。それに引き換え・・・何がいけなかったんだろう。