古文書昆虫学

ゼミの教え子が修士を了えて国文学研究資料館に非常勤で勤めた時、仕事内容を尋ねたら、受け入れた古典籍の塵を払っている、丁の間に挟まっている虫の死骸は丁寧に保存しておくよう言われている、と話したことがありました。和古書の扱い方は一応教え込んだし、図書館司書の資格も持っているので、どういう目的の作業だろう?虫害を防ぐ方策を編み出すためかしらと思いながら、そのままになっていました。

今日、新聞を読んでいたら、「古文書昆虫学」という見慣れない言葉を発見しました。古文書のクリーニング中に見出される蜘蛛や虫の死骸・抜け殻を手がかりに、過去の虫の生態を研究する、深川博美さんという人の話です。今は古文書クリーニング専門店蝶文堂を経営しているという。ふうん、ビジネスになるんだ、と記事をつくづく読んだところ、鳥取県立博物館で2008年に3000点の古文書をクリーニングした際、大量の蜘蛛の抜け殻を発見、専門家に見せたら、幻の蜘蛛と言われていたイヨグモだと判明したのがきっかけだそうです。イヨグモは1913年に愛媛県で見つかって以来、採集例が少なく詳しい生態は判っていなかったのだそうで、この時江戸時代から大正年間までの資料から45例が見つかり、ほかにも現在では希少になった生物が見つかったとのこと。

「古文書の中は一種の研究フィールド」、という彼女の言に納得しました。文化財保存だけでなく、昆虫学や民俗学の方面にも発展する問題なんですね。しかもこの時助言した専門家の名前を見たら、鳥取大学でのかつての同僚でした。本ブログに「昆虫学者の老後」と題して紹介した、あの人です。

和古書を閲覧すると、銀杏の青い葉が挟まっていることがよくあり、虫除けだと教えられました。茶色く枯れた葉が入っているのは煙草の葉で、これも虫除けだそうです。