異文化接触

30年前の話です。鳥取大学には工学部もあり、農学部に砂漠の研究所もあったので、アラブ諸国からの留学生がよく来ていました。イスラム教は偶像崇拝を禁じていますが、当時の鳥取地方には路傍に石仏や小さな祠がいくらもあり、ある時、留学生の1人がそれらを片端から破壊して回って警察沙汰になりました。普段は異なる文化の国にいるのだと分かっていたのですが、望郷のあまりに冷静さを失くしたらしいのです。本国送還になり、大学では教養部に留学生対策の教員ポストが新設されました。

翌年、新規採用されたのはアイヌ語の若手研究者でした。受賞歴もあり、業績は十分でしたが、ポスト名は日本語・日本文化教育。文化人類学か、日本語教育の専門家が来ると思っていた私は、教養部の教員にわけを尋ねました。異文化接触の経験者を採った、との返事でした。しかし鳥取では、アイヌ語研究の地盤がありません。すぐ異動してしまうのでは、と言ったら、無能な人に定年までいて貰うより、有能な人にいて貰う方がいい、たとえ3年でも(大学では、最低4年は異動しないのが暗黙の礼儀になっています)、とのシビアな答え。未だどこの大学でも、留学生支援教育は手探り状態でした。

東大駒場文化人類学担当教員の渡邊日日さんがnote.comに、「第2外国語・初修外国語でロシア語を学ぼうと考えている新入生へ」という文章を載せています。私は今こそ、ロシア語・中国語・韓国語に堪能な人材を大量に育成しなければならないと考えます。さきの大戦で英語教育を禁じた愚行を繰り返してはなりません。それに、卒業後の社会需要も低くなるわけではないでしょう。一時的に留学や往来が不自由になるかもしれませんが、そういう状態を固定化しないためにも、ロシア語・ロシア文化圏に詳しい人たちが必要です。平和は、戦争放棄は、そうして守られ、実現されるのだからです。