平曲譜本2種

先週の古典籍展観大入札会に、平曲譜本が2種出ていました。NO125は波多野流譜本、NO126は前田流の『平家正節』です。

波多野流と前田流はどちらも一方流ですが、現在語られている平曲は前田流(名古屋の検校たちは波多野流だという説もあった)で、名古屋の今井勉検校以外は、もはやすべて譜本による伝承になりました。

大入札会の目録には、NO125は「平家物語 灌頂巻並十二巻 江戸中期写 無声道人・笠間義夫旧蔵 25冊」とあります。波多野流の譜がついており、各巻上下分冊と「平家物語灌頂」1冊、計25冊で、灌頂五句のあとに、「善光寺炎上」「延喜聖代」「祇園精舎」の小秘事3句があり(但し譜なし)、波多野流の大秘事の存在は確認されていないので、ほぼ完本と考えてよさそうです。

NO126『平家正節』は、「百二十二句 江戸期写 福地桜痴旧蔵 1冊那須資礼旧蔵印有 24冊」となっています。『平家物語大事典』の「平曲・平家琵琶」の大半を執筆している鈴木孝庸さんに訊いたところ、この本は昨年12月の新興展にも出陳され、目録に詳しい書誌があるとのこと。『正節』一之上から六之下までの12冊があったと想像できるが、間の物、小秘事、大秘事、附録(首巻)、指南抄などがあったのかどうかは不明、とのことでした。鈴木さんは別に無声の蔵書印のある『平家正節』をお持ちだそうです。

譜本同士でも墨譜は必ずしも同じではないが、曲としてはそもそも句の構成法が同じであり、波多野流の譜もおよそ『正節』と同様に語れるとのことでした。波多野流の音声資料は、湯浅半月の語る「弓流」(LP、CD)が日本コロムビアから出ています。

譜本の研究は主にアクセントの方面から行われましたが、今後はどうなるでしょうか。