菊坂コロッケ

近所の肉屋で揚げるコロッケは人気商品です。十数年前は、いかにもbutcherらしい体つきの主人が勢いよく「へいらっしゃい!」と声を掛ける店だったのですが、主人が高齢になってデイサービスに通うようになり、今は女将と娘の2人でやっています。

ここで揚げているのは、私たちが高校生の頃の、挽肉と玉葱みじん切りがぎっしり詰まった、old fashioned コロッケ(現在レストランで出されるようなコロッケが一般化したのは、私たちが大学生になってから。マッシュポテトに何やら染みこませた枕形のフライをコロッケとして認知するには、私は少々時間がかかりました)。揚げ油を精選しているせいもあって、昼は自営業の人たち、夕方は子連れの母親、そして休日には紙にくるんで食べながら歩く若者たちに大人気。夕方には売り切れて、べそをかく子供を慰める母親も見かけます。

先日、ある文庫へ調査に行くと、私の住所を見て、菊坂コロッケを知っているかと尋ねられ、あの店では昔よく買った、と懐かしがられました。あんまり懐かしそうだったので、午時に配達できないかと肉屋で訊いてみたのですが、女将ももう80歳、独りになるのは心配なので配達はしない、と断られました。随分迷ったものの、次に行く時、手土産に持って行くことにしました。図書館への手土産に油の滲む包みはまずい。有名ホテルの紙袋に入れ、恐る恐る持って行き、しかしとても喜ばれました。東大病院に家族が入院していたとか、内地留学で東大に通ったとか、それぞれに思い出があるらしい。

新しくできたB-ぐるの「菊坂通り」停留所のすぐ近く、日・月曜は休み、孫が商業高校へ行っているから跡を継ぐでしょう、と話しておきました。先方で喜ばれたよと言ったら、女将は有難いことだねえ、と感激。前代未聞の手土産だったに違いありません。