名古屋の尾崎正忠さんから、『平曲ノート 当道と平曲』(非売品 月見ケ丘文芸舎刊)を頂きました。尾崎さんは永年、名古屋の平家語りの保存と普及に尽力、平曲譜本の聖典ともいえる『平家正節』の尾崎家本影印や、伝記『荻野検校』などを刊行し、平曲に関わる多くの人たちを励ましてもきました。
送り状には、92歳になるので身辺整理を急いでいるが、捨てるに忍びないノートが数冊見つかったのでまとめてみたとあり、序文には、能狂言が専門でやはり名古屋平曲を支援してきた林和利さんが、校閲を手伝ったとあります。全140頁、1『当道略記』を読む 2江戸時代の当道の歩み 3明治時代以降の平曲 という構成になっていますが、1では当道資料の『当道略記』から、平曲創成の経緯や当道成立の事情に関する伝承を考察、2では江戸時代の検校の記録『三代関』から、師弟の伝承系譜を整理、3では現在に至る平曲の伝承・普及活動を概観しています。
本書の「おわりに」で語られる思い出話は貴重です。尾崎さんは能楽師の家に生まれ、あの『平家正節』を中学生の時自転車に積んで疎開させたこともあり、本業の生物学の傍ら、平曲の研究を続けてきたとのこと。当道の歴史や平家語りの実際についての研究は資料の扱いが難しく、また地方の民間で断片的に記されたものも多いので、今後、それらを集大成して客観的な注を加えていく作業が必要になるでしょうが、そういう地味な仕事に長い時間を捧げる人が、これからの時代に出てくれるでしょうか。
なお名古屋の中日文化センターでは11/13、12/11,1/8の3回連続で、荻野検校顕彰会主催の平曲講座を開くそうです。大野美子講師による実演の指導もあるらしい。お問い合わせは、電話0120-53-8164中日文化センターまで。