オンラインで見る諸本

karpaさんがブログに「オンラインで見られる平家物語諸本」という頁を開設したことを知って、覗いてみました。最初に、完璧な諸本分類をやる所存はない、という意味の断り書きをつけていますが、参照された論文の著者の責任として、大枠そのものの誤りは訂正して貰うことにしました。コロナ下の今日この頃、便利ではあるが、今後の研究に混乱を招くような仕儀は、作成者も不本意でしょう。内容の一々については、利用者が随時指摘して改良していくのがいいと思いますので、私はチェックしていません。

https://kzhr.hatenadiary.jp/entry/2021/07/04/022027

現在使われる平家物語諸本の分類法には次のようなものがありますー①拙稿「諸本論とのつきあい方」(「中世文学」60号 2015 p50掲載) ②『無常の鐘声ー平家物語』(花鳥社 2020 p2掲載 桜井陽子作成)。①は渥美かをる・山下宏明氏らによって築き上げられた諸本体系をもとにし、②は山田孝雄氏が採った形態上の区別を加えてありますが、頼朝挙兵記事の有無によって読み本系と語り本系(富倉徳次郎氏は「読み物系・語り物系」)に二大別する点は変わりません。この二大別は、文芸としての性格にも関わり、麻原美子氏は源平系・平家系という呼称を用いていますが、学界に普及するには至っていません。かつては増補系・語り系、当道系・非当道系、という分類もありましたが、原態や芸能との関係は不明な部分が多いので、現在は使われません。

karpaさんの目的は天草本の研究なのだそうで、底本とされる百二十句本の位置づけが重要でしょう。山下氏が「覚一本系周辺本文」という呼称で括ったグループですが、じつはその成立時期や背景は未解明です。一時は古態本から覚一本への過渡的本文とみなされたこともありましたが、それを明確に否定したのは故千明守さんでした。「系」と命名するほどの自立性があるのか否かも、今後の研究に俟つ状態です。それゆえ①では「一方・八坂両系の性格を併せ持つ本」という項に入れています。平松家本もこのグループです。

なお文禄本の大半は八坂系一類に入れられます。また参考源平盛衰記平家物語諸本とはいえません(注釈書)し、史籍集覧は現代の活字本です。