コロナの街・part 21

茗荷谷まで買物に行こうと、地下鉄の駅に下りました。ホームの壁際に、若い女性が正座しています。こんな所で、気分でも悪いのだろうか、声を掛けた方がいいかなと、歩みを緩めかけた時、女性は突然、五体投地を始めました。額も腕も地に着ける、丁寧な五体投地です。あっ、と思いました。信仰上の定時なのでしょうか。男性たちが遠巻きに見ていても意に介さず、ゆっくりと続けます。バスタオルか何か持っていれば、と思いましたが、勿論、私は何も用意してありません。

動き出した電車の中でまず思ったのは、現代社会には合わない戒律だよなあ、ということでした。せめてどこか、公園でも探しに行く余裕は許されないのだろうか。しかし信者にとっては、そういう世間の目に堪えること自体が信仰なのだろうし、厳しい環境の中で生まれた宗教では、少しでも戒律を緩めたら、堕落は止められない、という事情があるのでしょう。

次に考えたのは、私はあのときどうすべきだったのか、でした。大塚駅まで行けば、たしかモスクがありました。そう言って上げればよかったかしら。いや、余計なお世話でしょう。宗派が違うかもしれない。でも、マスクをつけているとはいえ、このコロナの街で、地下鉄のホームに顔を押し当てる動作を繰り返すとは・・・

茗荷谷駅前のスーパーの2階にはしまむらがあったのですが、店が入れ替わったらしい。サンダルを買い換えたいが人混みには出られないので、代用品でも入手出来ないかと思って寄りました。新規開店したダイソーは百均によく似た品揃えで、女子中学生たちが燥いでいます。1階で野菜やパンの買物を終える頃には、もうあの女性のことはすっかり忘れていました。この街のどこかで、夕べの祈祷を捧げているのでしょうか。