一般向け

[高木浩明です。今回のシンポジウムでの研究者のやりとりを聞き、とても中身の濃い話ではあったけれど、果たして一般の人が聞いていたら理解できただろうかという風に思いました。研究は、研究者だけがわかればそれでいいというものではなく(そういう考えだと研究者にも伝わっていないでしょう)、誰もが分かるように、自身の研究を話すことができ、書けることが大切ではないかと思います。
昔、指導教授から聞かされた話を思い出します(後でわかったことですが、話の種は司馬遼太郎の講演でした)。それは、京都大学教授で南極越冬隊の隊長でもあった西堀栄三郎と、仏文学者の桑原武夫の話です。西堀が南極探検から帰ってきた時に、桑原は「おまえの体験は貴重だから文章に残せ」と言ったそうです。西堀は「おれはお前と違って理系の人間だから、文章なんて書けない。どうすれば書けるようになるんだ」と訊いたそうです。そこで桑原は、「電車の中で新聞ではなく、週刊誌を読め」と言いました。それまで週刊誌を読んだことがなかった西堀はあわてたそうですが、それから数ヶ月、週刊誌を読み続け、その後『南極越冬記』(岩波新書)を書いたというのです。]

軍記物語講座の原稿は、一般の読書家にも読んで貰えるように、と依頼状には書いたのですが、やさしく書く、というのは超難問です。身の回りの挿話を引き合いに出せばいい、というものではない。扇情的に(面白く)書けばいいわけでもない。ですますをつければいいと思っている人もいますが、違うでしょう。一つ言えるのは、本人が解らぬまま書いた文章は難解だということです。