軍記物語の絵画化

石川透さんが花鳥社のサイトに、「軍記物語とその絵画化」というコラムを書いています(https://kachosha.com/) 。 この半世紀の間に、軍記物語の絵画資料がよく知られるようになりました。私も以前は近世の絵画だから、と見向きもしなかったのですが、編集者の問い合わせや、奈良絵本源平盛衰記が市場に出た時の経緯(何かの月報に書きました)、TV番組に出演する際の必要などからしだいに関心を持つようになりました。長門本の悉皆調査のために、30冊本の平家物語について問い合わせして、真田家旧蔵の奈良絵本平家物語に出会ったこともありました。

石川さんのコラムには、太平記源平盛衰記平家物語・保元平治物語・幸若などの絵巻と絵本が取り上げられていますが、ほかに扇面絵や屏風などもあります。金や濃彩の美しいものが多く、衣装の文様や襖絵などが精密に描かれ、武士社会での一種のステイタス・シンボルだったかと思われます。職人を抱えた工房で、(ちょうど現代のアニメスタジオのように)分担作業で制作されたらしい。

必ずしも軍記物語の本文通りではなく、芸能や伝説などの挿話が取り込まれていることもよくあります。後に絵巻を寸断したり、絵本をばらして売ることも多かったようで、現代でもそれらは市場に出て来ます。

コラムに付せられた3枚の画像は、いずれも石川さんのコレクション。平家物語「大原御幸」の1枚は、後白河法皇と阿波内侍が室内で対面している所へ、供花を摘みに行っていた建礼門院と大納言佐が山から降りてくる場面。人気のあった場面です。保元物語の方は、2枚とも源為朝の後日譚。入浴中の為朝が追手に囲まれ大暴れする場面と、伊豆大島へ流された為朝が、追討軍の船の吃水を矢で射貫き、最後の抵抗をする場面です。軍記物語講座第1巻には、保元平治物語の絵画資料研究も載る予定です。