平家物語の「作者」

勉誠出版『古典文学の常識を疑うⅡ』が出ました。日本古典文学の諸学説の帰趨を知ることのできる工具書を意図して(同書「はじめに」より)、2017年5月に出た同題の書の続編です。「縦・横・斜めから書き換える文学史」という副題を持ち、57の項目を立てており、読者対象は、高校生・初年次教育の学生をも含む、とあります。「はじめに」に言う「古典文学においては、確定的な事実は圧倒的に少ない」「研究史を検証し、学説を仔細に点検すると、いわゆる通説や定説は、どの時代においても、実はほとんど存在しない」との指摘や、「これは動かぬ事実である、あるいはここまでわかっているが、ここから先は未解明である」と区別するのが研究の原点であることは、大いに同感です。

しかし項目の選び方、立て方は必ずしも適切とは言い難い。執筆を依頼された側は、その無茶振りに悩んだ人も多かったのではないでしょうか(私もそうでした)。全体的に見てもバランスが取れていないなあ、と思う点も少なくありません。

時の話題、「新年号「令和」の典拠は現代に何を語りかけるのか」という項目も立てられています。軍記物語関係では、滝沢みかさんの「『平治物語絵巻』は何を表現しているのか」と、二本松康宏さんの「『曽我物語』はどのように語られたか」が、与えられた制約の中で、問題を上手に整理し、新たな研究への方向づけを示しています。この先は、軍記物語講座第1巻、第4巻(花鳥社)でそれぞれ書いてくれることでしょう。近年は、平治物語の諸本論、承久記、義経記が手薄な分野ですので、課題は山ほどあります。

私に与えられた題は、「『平家物語』の「作者」をどう考えるか」というもの。語りの問題も含めた総合的な展望を、「芸能史研究」226号に書きました(近刊)ので、そちらを併せてご覧下さい。