想像力の文化比較

『東の妖怪 西のモンスター 想像力の文化比較』(德田和夫編 勉誠出版)という本が出ました。ユーラシア大陸を東西から、怪異・妖怪の伝承を中心に据えて眺め渡す、と序言にはあります。今や妖怪が大流行の時代(決して暗喩ではありません)、関心をもつ人は多いと思いますが、学問的方法の確立は未だこれからでしょう。本書には、方法も素材もいろいろな論考が並んでいます。

岩崎雅彦さんの「中世の妖怪」は、鵺と土蜘蛛について、『平家物語』と能、絵巻草紙と能を比較して考察した論。源頼政の鵺退治と、源頼光の土蜘蛛退治は、能が初めて設定した構想で、歌舞伎・浮世絵などに取り上げられ、遡って『平家物語』や絵巻などのイメージにも影響したと述べています。能の「鵺」は「八島」と共に、世阿弥の世界観を深く考えさせられる作品なので、興味深く読みました。

德田和夫さんは、総論「怪異と驚異の東西」、及び「妖怪・モンスターの攻略―鏡の呪力伝承を通してー」を書いていますが、あまりに広く話が飛ぶので、せっかくの該博な事例が沈んでしまっています(注の方が本文より多い?)。殊に後者は、「鏡」の意味が異なっているものを一緒くたにしている気がするのですが。伊藤慎吾さんの「日本のサブカルチャーにおける〈生ける屍〉の展開」も同様に、民間伝承から現代の映画・アニメ・ゲームまで、ゾンビの事例を拾い上げていて、この方面に疎い私には勉強になりましたが、事例収集の後、これからどうするのかな、と思いました。

小松和彦さんの「二つの「一ツ家」―国芳芳年「安達ヶ原」をめぐって―」は、能や説経浄瑠璃、見世物などに影響を受けた浮世絵2種の考察。芸能が絵画に与える影響の大きさには、私も同感です。ところどころ詰めが甘いと思う点もありましたが、興味深く読みました。

私が最も面白く読んだのは、山本陽子さんの「光るものは奇跡か妖怪か」でした。古来日本では、仏以外の光りものは怪しいものとされてきたが、人物の瞳に反射する光を描くようになって、次第にそれが肯定的に受容されるようになった、と述べています。現代の漫画を思い浮かべると、楽しいですね。