梅花

春の嵐が吹き荒れる一日です。和漢朗詠集をめくっていたら、「養得自為花父母」の句が眼に留まりました。まさにこの季節の雨です。近所でも梅が盛りになりました。

梅は桜と違って林や並木よりも、家の軒先など人里にまばらにある方が風情があります。例えば学生時代に紀伊半島を一周した時の川湯温泉あたりの白梅、鳥取を離任する際に同僚たちと訪れた津山・総社あたりの白梅。藪の中の野梅も印象的ですが、世田谷に住んでいた頃、無人の邸宅の塀の外に、1本だけあった老木の梅も未だに記憶に残っています。もう伐られてしまったでしょうね。

山陰本線を往復していた頃、地名は覚えていませんが、車窓から入り江がちらっと見える風景の中に紅梅の大木があって、一瞬で通り過ぎたのに今でも夢に見ることがあります。弟を看取った年は水戸へ通いましたが、この時季、偕楽園前には特急停車駅が特別にできます。水戸は、市内のそこここで、鶯がごくふつうに鳴く街でした。

遡れば子供の頃、近所に白梅の大木を数本植えた畑があって、祖母がよく連れて行ってくれ、「桜伐る馬鹿、梅剪らぬ馬鹿」という諺を教わったことも、がさがさした木皮の手触りと共に思い出します。

我が家にも白梅が1本欲しいと思って、昨年、近所で落梅を拾ってきて播いてみましたが、果たしてどうなるでしょうか。