信濃便り・薔薇の家篇

「もしも私が家を建てたなら」、という歌が流行ったことがありました。その家であの人と一緒に暮らしたい、というのが主旨なのですが、庭に植えたい花が「真赤なバラと白いパンジー」と続くので、私は小馬鹿にしました。あまりに陳腐だから。

兼好法師も庭に植えたい草木を数え上げていますから、誰もが共に暮らす植物にはこだわりがあるでしょう。そしてそれぞれに理由もあるはずです。子供の頃は、薔薇のアーチを潜って入る家を夢みていました。名古屋での通勤途中に薔薇で蔽われた2階家があって、季節にはバスで前を通るのが楽しみでした。我が家の近辺にも紅薔薇が2階のバルコニーまで絡まって咲く家が2軒ありましたが、1軒は建て替えられてなくなりました。

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薔薇の家

長野の友人から写メールが来ました。塩尻にある弟さんの家で、お嫁さんは「緑の親指」(栽培上手を、英語ではこう呼ぶ)なのだそうです。東京はもう薔薇の季節を過ぎましたが、信濃国は今が盛り。

長ずるにつれて、私の「庭にありたき」花は変化し、働き盛りの頃は、香りのいいものを植えている家をゆかしく思いました。香りはその家だけの独占ではなく、通りすがりの人をも慰めるからです。梅、沈丁花、素馨花、梔子、木犀・・・それらの中いくつかは、今我が家でも育てています。鉢では育てられない、蔓性のものや大木になるもので欲しかったのは、凌霄花、木香薔薇、野薔薇、葡萄、楓ー数えるときりがありません。

門の代わりに薔薇のアーチを作るなら、真赤な薔薇でなく、白やピンクの淡い色がいい、と思っていました。大理石(アラバスタ)のようなグラデーションのある花弁で。