どこから行っても遠い町

川上弘美の短編集『どこから行っても遠い町』(新潮文庫 初版は平成20年)を読みました。知人のブログ(はてなブログ「歩いて、読む。」)で読後感想を読んで、私も読みたくなり、貸してくれと言ったら、わざわざ新本を買って送ってくれたのです。

連作のように、登場人物が一部重なる短編を並べて編んであります。ある人物や人間関係を他の視点から見ると、という効果も計算のうちでしょう。私は暇を見つけては1篇ずつ、2ヶ月近くかかって読んだので、つながりが曖昧でしたが、最後に「ゆるく巻くかたつむりの殻」を読んだ時、全篇がしゅっとまとまりました。

何ということもない、どこにでもあるような、平凡そうな市井の中にじつは掘り下げれば深刻になるドラマや、解ききれない謎がある。日々ふつうの表情で暮らしている人と人の間にじつはのっぴきならない関係が、隠されている。ふと、昨夜TVで視たアニメ「君の名は。」を連想しました。物語の設定はまったく似ていませんが、人と人の関係の不確かさと、にも拘わらずやむにやまれぬ憧憬とが、共通している気がします。これが現代人の存在感覚なのでしょうか。

現代小説には珍しく、もう一度読み返したくなる作品でした。