田中花実

鈴木るりか『さよなら、田中さん』(小学館 2017)を読みました。作者は「12歳文学賞」を小学生時代に3年連続受賞した人で、受賞作2篇に書き下ろしを加えて出した本です。主人公田中花実の眼から見た4篇と、彼女の存在に励まされて成長していく意気地なしの男の子の側から書かれた表題作とで、構成されています。

作者は現在15歳ということですが、まずは達者なストーリーテリングに驚かされました。よく人を観察しているし、語彙も豊富だし、物語の仕掛け方も心得ている。後生畏るべし、とはこういう場合に言うのでしょうか。ただ、自然描写のようなものは無い。いわば説話文学のように、人の行動と会話で筋が進んで行く。それゆえに明快で、すいすい読めます。「がばいばあちゃん」(島田洋七)や「ペコロスの母」(岡野雄一)にも通じる、泣き笑いの中から生きる励ましを与えられます。

理科教師の言う「食器棚の奥の骸骨」とか、主人公の豪快な母親が言う「死にたいくらい悲しいことがあったら、とりあえずメシを食え」という教訓など、10代の幸せな子が掴んでいるとは思えない人生の真実も出て来るし、何と言っても作者と同年代の「子供」(子供は、じつは大人が思うほど子供ではない)のリアルを知ることが出来ます。

それにしても、こういう賞を設けた(12回目の今年で終了)企画力に脱帽しました。今や子供、老人、文芸教室出身者、等々作家予備軍は多様です。では文学の可能性は、果たしてどれだけ広がりつつあるのでしょうか。