源頼義

元木泰雄さんの『源頼義』(吉川弘文館)を読みました。元木さんはつぎつぎに本を出していますがどれも分かりやすく、安定した記述ぶりで、心地よく読み進めることができます。同じ叢書の『藤原忠実』(H12)もそうでした。

源頼義八幡太郎義家や頼朝の一族河内源氏の祖。藤原道長に仕えた父頼信と共に平忠常の乱を平定、陸奥守になり、前九年の役安倍氏を滅ぼしたことが『陸奥話記』の題材になっています。元木さんは断片的な史料や説話集などから当時の京都・東国の人脈を読み解き、政治の動向と人物の命運が変わってゆく経緯を描き出しています。『陸奥話記』の虚構が手に取るように分かりましたし、『今昔物語集』や『古事談』所収の説話が何を語っているのかもよく分かりました。そういう点で、文学をやっている者にも有益です。

この叢書は新書版サイズから今のサイズに変わって、文字も大きくなり、ほどよく余白があって、頭注代わりの小見出し以外はよけいなお節介がなく、読みやすい本になったなあと思いました。