『新猿楽記』に見る下級貴族たち

『下級貴族たちの王朝時代―『新猿楽記』に見るさまざまな生き方』(繁田信一 新典社)を取り寄せて読みました。私が知りたかった琵琶法師を含む芸能者のことは、詳しくは触れられていませんでしたが、買ってよかった(¥1620)と思いました。

文字が大きくて、文章もレイアウトも読みやすい(へんに凝っていない)。通勤車内の読書にもお勧めできます。『新猿楽記』は平安後期、1028~1065年頃に、藤原明衡という中級貴族が書いた往来物(現代で言えば百科事典、類語辞典の用途を果たす読み物)ですが、本書は、その中に登場する右衛門尉一家、妻3人・息子9人・娘16人・婿13人の職や人物を描き出す部分について解説を加え、王朝時代の社会経済、風俗を分かりやすく説明します。例えば博徒、武者、田堵、巫女、鍛冶、学生、相撲人、馬借・車借、棟梁、遊女などを取り上げ、具体的に、その社会的地位や経済力にも触れています。

あとがきによれば著者は、これまで皇族・上級貴族(三位以上)・中級貴族(五位以上)・下級貴族(正六位上)の各階層について著作を出し、従来は研究対象から疎外されていた中級・下級貴族から庶民層へ、目を向けているとのことです。本書に書かれた史的推断の一々が正しいか否かは、私には判断できないものの、11世紀後半の京都、行政府と市井をつなぐ階層の雰囲気が実感でき、こういう視点が他の分野にも広がったら、楽しい本がたくさん生まれるだろうなあと思いました。