天皇の装束

近藤好和さんの『天皇の装束』(中公新書)を読みました。近藤さんは有職故実の専門家です。まえがきに「本書は、天皇のファッション史を説くものではない。装束を通じて、天皇という存在を考えるための手掛かりを得ようとする」ものだと言っており、巻末では「装束の可視的身分標識としての役割の頂点に位置したのが天皇装束であり、摂関期以降、絶対的な権威者となった天皇の権威を体現」していると結んでいます。

本書の構成は序章・天皇の生涯とその装束、1冕服で即位式に臨む、2束帯で公事に臨む、3御引直衣で日常生活を送る、4上皇へと変身する天皇、5法皇へと変身する天皇、終章・天皇にとって装束とは、となっていて、全240頁、専門用語が連発され、必ずしもすらすら読める本とは言い難く、近藤さんの旧著『装束の日本史ー平安貴族は何を着ていたのか』(平凡社新書 2007)を読んでから本書を読むのが、いいかもしれません。願わくは、もっと図(着付けた全身像)による説明が欲しかったと思います。

しかし折から、伊勢神宮参拝の今上天皇と付き従う神器(剣と曲玉)の映像が報道され、平成2年の即位直後の黄櫨染束帯姿と、今回のモーニングにシルクハットを携えた姿とを視ながら、紆余曲折を経た我が国の天皇制を、一目で表すのが装束でもあるなあと痛感した次第です。

あとがきには、母親の介護のために離職し、なおかつ最期までその平安を見守り続けたいとの覚悟が述べられていて、感動しました。