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福島県の相馬の旧藩主(34代目)が、東北大地震後、復興に尽力した話が新聞に連載されていました(「「殿、ご帰還」再起の福島」朝日朝刊経済欄 2024/03/12~16)。まるで読み物みたいに面白い記事でした。

相馬は騎馬武者が神旗の争奪戦を繰り広げる野馬追行事で有名。34代「藩主」は先代から牧場経営を業とし、北海道から広島に移って暮らしていたのだそうですが、2023年、浪江町に新居を構えて単身赴任、住民票も移したという。東京で開かれた福島復興シンポジウムでの相馬藩政反省の発言から始まって、旧藩主の思いと地元の微妙な反応、殿様商売の失敗と城跡地競売防止、そして、野馬追は故郷の原点で自分たちの生甲斐、とさえ言われて奮起する「殿様」のストーリーです。

都会の若者から見れば、時代錯誤の物語だと嗤われるでしょうか。いやいや地方出身者の中には、あるある、という人も少なくないのでは。今でも地元の祭には、東京から旧藩主が里帰りして行列の先頭に立ち、沿道から「との!」という声が掛かる、という土地はあちこちにあります。

故郷というアイデンティティ、歴史を背負った政治の責任、大災害後の復興は何を核に据えればよいのか等々、考えさせられる重い問題がここにはあります。東北大地震の復興政策は失敗だった、地元の思いを無視したからだ、という声が強いらしい。原発事故への対応を急いだためもあったかもしれません。しかし失敗と成功の両方の例が蓄積されて行き、単に建造物だけを造ればいいわけではない、郷土の復興には何が必要か、という教訓が北陸に活かされることを期待したいと思います。追憶や愛着のような、目にも見えず、個別性が強くて一般化の難しいものこそ、悲劇の後には重要だからです。