ウクライナの歴史

黒川裕次著『物語ウクライナの歴史』(中公新書)を読みました。初版は2002/8に出ていて、私が読んだのは12版(2022/4)です。20年も前の、と思う人もあるでしょうが、却ってそれがよい。今回のロシア侵攻を知らずに書かれたのに、ロシアは同じ手口を繰り返してきたことがよく分かり、また自ずから中立的立場になっています。地政学的にも歴史的にも、こういう事態は必然だった、食い止めるならもっと以前、少なくともクリミア半島侵略の時点でなければならなかった、と痛恨の思いに駆られます。

本書は1スキタイ:騎馬と黄金の民衆 2キエフ・ルーシ:ヨーロッパの大国 3リトアニアポーランドの時代 4コサックの栄光と挫折 5ロシア・オーストリア両帝国の支配 6中央ラーダ:つかの間の独立 7ソ連の時代 8三五〇年間待った独立 という章立てに参考文献一覧と略年表がついていて、私はまず7,8から読みました。知らない固有名詞が多く、民族の入り乱れる3500年間の歴史ですので、仕事の合間に読むには時間がかかりましたが、殆ど頁ごとに自分の蒙を啓かれました。

著者は1944年生まれ、外務省に入り、駐ウクライナモルドバ大使を務めた後アフリカ諸国の大使を歴任したようです。参考文献に掲げられた書目を見ても分かる通り、外交・政治方面の体験だけでなく文学・音楽・歴史などの教養があり、本書の著述にもそれが現れています。故に単なる時事問題の解説としてでなく、私たちが関わってきた文化や教養の根本についても学ぶところが多い。

本書をのろのろ読んでいるうちに戦況は逼迫し、彼国の大統領の表情も変わってきました。もはや折鶴やポケットチーフで連帯を示す時期ではない。私たち自身の未来を考えるためにも本書を読むべきです。殊に、反撃力だの降伏だの軽々しく口にする輩は。