神道の中世

伊藤聡さんの『神道の中世―伊勢神宮吉田神道・中世日本紀』(中公選書 2020)を読みました。コロナのため久しく本屋に行けず、昨年立ち読みして買ってきたままツンドク状態だった1冊です。書名に並んでいるテーマは、ずっと気になりながら最新の研究成果を参照する機会がなかったものばかり。伊藤さんにこの分野の大著があることは知っていますが、読み通す自信がないので、とりあえず入門書として買いました。

序章でずばり、中世神道儀礼と教理において仏教と密接に結びつき、僧侶が担い手となり、新たに作られた偽書に依拠することが多かった、それゆえ近世の神道国学は、中世神道の否定の上に成り立っている、と指摘しています。しかし、日本の神々についての教え・信仰の全体的呼称として「神道」という語が用いられるようになったのも、神が人間の道徳心と深く関わり、自然と親和した環境を信仰の場とすることも、中世神道の中で生じた思考である、との断言は、本書の基本姿勢を明示しています。

1970年代から思想史や歴史学の方面から、また能の出典研究から、中世独自の神話記述が注目されるようになり、80年代以降、未紹介の資料が続々影印や翻刻で公刊されて、大部の研究書が出るようにもなった、と展望しています。伊藤正義さんや山本ひろ子さん、黒田彰さんの著書などは私も同時進行的に読んでいましたが、次第に分野が限定され、掘削ドリルのように深く狭く掘り進められるようになって、関心を失いました。

本書は1中世神道の歴史 2中世の神観念 3中世の天照大神信仰 4空海と中世神道   5僧たちの伊勢参宮・中臣祓の変容 6吉田兼倶の「神道」論 7秘儀としての注釈 8能と中世神道 などの論考を配置していますが、圧巻は3,6,7です。和歌がいかに政治的な文学か、権威への欲求がいかに根源的なものであるかを考えさせられました。