唱導文学研究12

福田晃・中前正志編『唱導文学研究』第12集(三弥井書店 2019)を頂きました。論考8篇、『神道雑々集』の注釈1篇、資料紹介2篇を詰め込んだ1冊です。それぞれに重量感のあるものですが、私はその中でも、児島啓裕「堅牢地神説の展開ー降魔成道譚をめぐってー」、小助川元太「『壒嚢抄』の<神護寺縁起>ー「我国ハ神国トシテ、王種未ダ他氏ヲ雑エズ」ー」、福田晃「馬飼文化と観音信仰ー英雄叙事詩としての「田村麻呂」ー」、それに高橋秀城「萩之坊乗円筆「鴨長明絵像」(石川丈山歌賛)について」を興味深く読みました。

福田さんは以前から、馬飼文化を追究して来られました。母校の國學院大學で講演をお願いした際に、関連する資料を図書館の蔵書から選んで展示したのですが、私とゼミ生とはその解題を作成しながら、諏訪本地や田村麻呂の絵巻、清水寺縁起が一続きのものであることを知らされました。殊に田村麻呂説話(将軍の由来を語る話でもある)の広がり、根深さは驚異的です。私が初めて悪路王伝説を知ったのは、子供の頃、宮沢賢治を通じてだったと思いますが、その背景にある、古代東北地方の薄明に包まれた歴史に、改めて想いをめぐらせました。

本書は『唱導文学研究』の最終巻なのだそうです。あとがきによれば、1991年以降、福田さんと故広田哲通さんとが年6~4回開いてきた研究会の成果を、2年に1度刊行したとのこと。今でこそ仏教関係の資料博捜と紹介、その解読はあたかも中世文学研究の王道を占めるかのようですが、「唱導」「唱導文芸」といった用語さえも特殊な、説明を要するものだった時期から、多数の研究者を育て、プロジェクトを完遂させてきた会です。殊に福田さんの活動が精力的なことには、数多の超人伝説があります。