覚一本本文異同小考

軍記物語講座第2巻『無常の鐘声』(花鳥社)が7月30日に発売されます。平家物語の論文14本と、「源平盛衰記国内地名索引」を収載しました。

現在の平家物語研究には、表現論が不足している、と思っています。例えば、こんな問題も考えてみてはどうか、という心算で、小文を書いてみました。

「覚一本平家物語の本文異同小考」 https://kachosha.com/gunki2020072101/

本シリーズは表紙と書名にも工夫を凝らし、最寄りの書店で平積みになっているのを見た一般の読書家も、思わず手に取ってみたくなるようにと考えたのですが、一部の書店に棚差しで置くのだそうで、ちょっと残念です。

研究者が内向きに籠もるのでなく、文学愛好家たちからも、ここが判らない、あれはどうなんだ、と言って貰えることが必要だ(研究者自身のためにも)と、痛感しています。単に興味本位のトピックスを盛り込んだり、あらすじや参考書の羅列を増やすことが一般向けサービスだとは言えません。他分野の研究者にも、軍記物語の研究はとっつきにくい、内容まで踏み込んだ議論は出来そうにない、と思われているふしがあります。学問的な水準は落とさず、しかし判りやすく説くにはどうしたらいいか、今後も考え続け、試行していきます。

第2巻の表表紙は、安徳天皇と平家一族の供養のために建てられた赤間神宮の水天門。国の重要文化財指定です。裏表紙は國學院大学図書館蔵『奈良絵本平家物語』巻九の「義仲最期」の挿絵。この奈良絵本は絵の数は少ないものの、人物が愛らしく描かれており、寛文12年(天和2年)版本をもとにした挿絵場面の選択は独特です。山本岳史さんが「國學院大學校史・学術資産研究」5号(2013)に解説を書いています。