コロナの街・part5

朝、パートの管理人さんが掌一杯の楊梅(やまもも)を届けてくれました。専任の管理人から言われたので、とのこと。例年より少ないが仏壇に上げるには十分です。

短い原稿の書き出しに四苦八苦した後、夕方になって梔子の花を剪り、肉屋の女将に届けました。例年なら30輪は咲くのですが、今年は10輪ほどしか蕾がつきませんでした。よそでも今年は樹の花のつきが悪いそうだ、と言いながら、女将は喜んでくれました。立ち話で、烏や鼠も、飲食店の残飯が少ないのでうろたえているという噂をしました。困っているのは私たちだけではないんだ、ということになって店を出ました。

マスクのせいで眼鏡が曇る。人にぶつからないように歩くのが難儀です。時計屋へ入って、腕時計の電池交換をして貰いました。2ヶ月も店を閉めていたのでどうしたのかと訊くと、息子から、年寄りはコロナの間店を閉めておけと言われたという。後継ぎがいないので、自分が出来なくなったらこの店も閉める、と言っていました。

雑貨屋の前には、ひところの半額になったマスクが出ています。自粛警察のジイサンに出会わないよう、裏道を抜けながら買い物を済ませました。カラオケ喫茶が店を開け、「ジョニーへの伝言」を流している。しばらく立ち止まって聴きました。

夜には牛肉と獅子唐を焼いて、明太子で山芋を和え、厚手の硝子の酒器を出しました。小さな方のグラスに楊梅を3つ入れ、大きな方のグラスに、冷酒を注ぎます。越後の純米生酒、蔵びらき限定の高千代です。40年前の教え子が送ってくれました。肴の楊梅も(漿果や桜桃は冷酒によく合う)、うす濁りのある銘酒も、眺めるだけで楽しい。

終日、原稿の締めくくりをどうするか、うわのそらで考え続けて暮れた日でした。