煮詰まったら

煮詰まっています。再校ゲラ33本(うち17本は全くの専門外)、原稿校正15本を抱え、編集者とやりとりするためには平日の時間内にきりのいいところまでいかなくてはならないので、時計を見ながら机にしがみついているのです。この際、家事は一切先送りする(植木もアイロンも、冬物の出し入れも、手紙書きも・・・未だ何かあったなあ)ことにしました。新聞も走り読みし、買い物も最少限度、夕食後も酒絶ちして読み続け、煮詰まってきてしまったのです。

そこへ、若い知人から氷見の鱒寿司が届きました。今日は夕食を作らなくていい。まるでこちらの状況を知っているかのように、タイムリーでした。外へ出れば、この空に続くどこかで、もう雪が降っている、と思わせる寒さです。日本海側では多分、雪起こし(冬の雷)が鳴っているでしょう。

買い物のついでに安売りのスイートピーの束を買い、食休みに古美術商から届いた名品交換会の図録を眺め、せめてもの注油をしました。絵画や陶磁器にはときどき、これ欲しいなあ、と思うものを見かけますが、器物は使ってなんぼ、というのが我が家の主義。もう今から名品を使いこなすほどの生活ではないので、図録を見るだけです。中里重利唐津や近藤悠三の染付にいいものがあり、浜田庄司の柿釉絵盛皿にはしみじみ見惚れました。使用痕あり、というのがまたいい。

もう2,3日はこのまま行くしかありません。若い頃は中休みの日を入れてわっと発散し、またとりかかったのですが、今はその体力も自信がない。煮詰まったままそっと、峠を越えることが大事です。父が晩年、夜は独りで美術全集や世界各地の写真集を繰り返しめくっていた気持ちが、理解出来るような気がしました。