雪のひとひら

ポール・ギャリコ矢川澄子訳)『雪のひとひら』(新潮文庫 初訳1975)を読みました。本屋で見かけた時、煮詰まりそうな仕事の予定があったので、合間にクリスマス気分で読むにはいいかも、と思って買って置いたのです。若い頃、読みたいなと思いながら、日々の生活に逐われて読めなかった作家でした。

久しぶりに開いた新潮文庫だったので、活字が大きく余白のひろい組み方に、ちょっと驚きました。ファンタジーノーベルというのでしょうか、絵本か童話、もしくは老後の再読に向いています。平仮名の多い訳文も、そういうつもりかも知れません。雪の結晶を女の一生の暗喩として、地上への到着から川を下って海へ、そして蒸発するまでを語ります。全体に、造物主への信頼と問いかけが底流にあるところが、老人向けと言う所以です。

原文は韻文かと思うくらい、詩的で、光景がありありと浮かぶ訳文ですが、「のこんの雪」とか(「残雪」か「のこりの雪」という方が分かりやすい)、「心がなぐさまりました」という言い回し(「なぐさめられ」か「やすまり」というのが正しい)や、あとがきで、女性は男性にみちびかれるものと強調する点に違和感を覚えて調べたところ、渋澤龍彦との関係など数奇な一生が判明して吃驚。自分の知識の欠けている部分が分かって、反省しました。

作品そのものは英文で読んだ方がよかったかも。訳者の経歴を見ると、英文科出身の亡母とは同窓でした。ふと、母はこの作品を読んだろうか、彼女ならどんなあとがきを書いたかなと思ったのですが、よく調べてみると1952年作で、すでに没後でした。