好漢

一昨年の暮から昨秋にかけて、老舗の国文学出版社を「卒業」した編集者たちが、小さな2つの出版社を起ち上げました。その1つ、文学通信は当初はひとり出版社で出発しましたが、今は3人体制となり、すでに16冊の新刊を出しています。昨日の朝日新聞読書欄には、その中の2冊が取り上げられていました(『中華オタク用語辞典』、『〈奇〉と〈妙〉の江戸文学事典』)。同時に2冊とはずいぶん好打率で、まずはおめでとう。企画も次々出ているらしく、どうやら経営は軌道に乗ったのでしょうね。

時には煽情的すぎて、どん引きした広告やイベントもありましたが、読者コミュニティを作り、快調に飛ばしているようです。社主の話では、サラリーマン編集者の時の方が経営を気にしない分自由ではあったが、今の方がずっと楽しい、とのことでした。

もう1つの花鳥社の方はややスローペース。未だ5冊しか単行本が出ていませんが、静かで読みやすい学術書を出しています。大元の老舗は、未だに過去の遺産でやっている状態と見受けられますが、この2社を送り出しただけでも以て瞑すべし、でしょうか。近年の事業を傍から見ていた者としては、早晩、2つのカルチャーに分裂していくのは必至だったと思います。ただ、古典を消費財と見ているだけではつまりませんよ。

問題は、古典と現代、あるいは学問と日常との間を4段階に分けるとすれば、文学通信と花鳥社の中間の文化、花鳥社よりもさらにアカデミックな文化が永続可能かどうか、だと思われます。かつての編集者は、作家や評論家、若手研究者を育てる役目も果たしていました。ゆめゆめ売れない著者は黙ってろ、みたいな文化成金にならないように。

好漢自重して、今後の道程としていま少し静かで、地味な、永続性のある著作にも目配りされんことを期待します。