お伽草子超入門

伊藤愼吾編『お伽草子超入門』(勉誠出版)という本が出ました。あとがきによれば、中世後半から近世を通じて豊𩜙な物語世界を擁していたお伽草子について、近代以降は軽視され、現代知識人の間でも無理解がまかり通っていることを憂えて、ひろくこのジャンルの面白さを知って貰うために編んだとのことです。また、ここ数十年、お伽草子研究を牽引してきた徳田和夫さんの定年記念を兼ねてもいるそうです。

お伽草子(中世小説、室町物語とも)は絵画と結びつきの強いジャンルなので、まず口絵のさまざまが楽しい。そして『昰害坊絵』『藤袋の草子』『花子ものぐるひ』『花鳥風月』『弘法大師御本地』という、傾向の異なる5篇を取り上げ、現代語訳と共にその面白みを解説しています(現代語訳と重複する部分が多いのは、工夫の余地があったのでは)。私が興味深く読んだのは、菅原正子さんの「『花鳥風月』ー巫女が占う光源氏在原業平の世界」でした。新たな物語が過去の物語の上に成り立っているーこれが室町時代の「成熟」度だ、それは他の文化にも共通する面がある、と思ったからです。

徳田和夫さんの「魅惑のお伽草子ー不思議の物語世界」はセンター入試に取り上げられた『玉水物語』と『鉢かづき』を中心に説いていますが、親切で面白く、しかもお伽草子のことがよく分かる総説です。『小男の草子』と『弁慶物語』を核にした『古典講読お伽草子』(岩波書店 2014)と併読するといいかもしれません。

本書には近藤ようこさんの漫画「ねずみの草子」や、お伽草子ガイドなどの付録も入っていて、一般読者や教育現場への発信も意図しているようです。ただ、お伽草子を教材として使うには、一手間必要です。私も何度か試験問題に使おうとしましたが、学校文法から外れる用例が多いことや、一ひねりした古典引用など、難関が多すぎました。