オリーブオイル

朝食のバターをやめて、オリーブオイルに変えました。1日2匙のエクストラバージンオリーブオイルが健康にいい、としきりに言われていますが、とうていそんな量の油を舐めることはできないので、パンにつけることにしたのです。

初めてレストランで小皿に入れたオリーブオイルを出されたのは、もう20年以上前、京都の小路の奥の洋食店だったと思います(京都人は新しもの好きなのです)。え?どうするの、という顔をしたら、パンにつけてお召し上がり下さい、と言われて意外でした。最近は珍しくなくなりましたが、その時はとっさに、灯火を連想しました。

さて朝食時。黄金に光る油滴をパンに垂らし、囓ると、かすかな渋みと野の香りがします。遠い記憶の底にあるような―何だっけ、と考えてみたら、幼年時代、弟と一緒に林や砂浜を駆け回り、目についた何かの実を試しに口に入れてみた(実際にそんなことがあったかどうか、覚えていません)時の感じだと思いました。陽の当たる、草藪の匂いです。これもいいな、と思って、しばらく続けることにしました。

オリーブオイルと言えば思い出されるのが、社会党出身の元首相です。就任早々イタリアで開かれたサミットでお腹を壊し、外交交渉どころでなかった、と報道されました。後年、あれは冷えた桃のジュースをがぶ飲みしたせいだ、と自伝で回顧しているそうですが、漁村出身の質実な政治家の失敗談としては、オイルたっぷりのメニューが原因、の方が分かりやすかったのかもしれません(ほんとうは緊張のあまり、腸が過敏になっていたのでしょう)。好感の持てる政治家でしたが、あのとき彼が自民政権に取り込まれたのが野党没落、一強政治への道の始まりだった、と評価されるようになり、残念です。誰も、当時は見通せなかったことではありますが。