震災体験・当日篇

2011年3月11日の午後2時過ぎ、私は渋谷校舎の半地下の会議室にいました。その日は、年度最後の大学院の教授会でした。会議途中で、遠くから近づいてくるような轟音の後、地震がやってきました。とっさに、あっ、これは遠いけど大きいな、と思いました。すぐにも席を立ちたかったのですが、定年退職する教員の一世一代の演説が続き、さらに議長が平然と報告事項も続けようとするので、堪りかねて、「もうやめましょう、後は文書で」と発言し、飛び出しました。

10階の研究室まで歩いて昇ったら、膝が笑いました。壁に造り付けの書架には、ぎっしり本が詰まっていたので、落ちられなかったようです。大きな被害はなく、とにかく帰宅する所存で、タクシーを拾おうとしましたがつかまりません。バスが来たので乗ったのですが、渋谷駅が見える所まで来て、渋滞で1時間以上動かず、やむなく降りて引き返しました(駅へ行っても、入場制限で入れなかったでしょう)。歩いて帰宅しようとする人たちの波と逆行することになり、みんな決死の表情で目が釣り上がっていて、今思い出しても怖い体験です。

途中のコンビニへ入りましたが、棚は空っぽ。しかしよく見ると、酒肴の類は売れ残っています。ドライフルーツとチーズと柳葉魚、それに缶ビールを買って職場へ戻りました。この日、自宅へ納品される印刷物があったのですが、受け取ることができないので、業者に電話しようと、唯一つながっている公衆電話に並んだところ、前にいたおじさんが、こまごまと「その瞬間」を語っていて、なかなか順番が来ない。私は小銭がなくて100円玉を投入したのですが、無料でかけられたことを後で知りました。

会議室で、オーバーを被ってうとうとしました。大型スクリーンでTVニュースが流されていましたが、眼が疲れるので見ませんでした。津波の映像などのことは、後日、人から教えられました。深夜、地下鉄の銀座線と丸ノ内線が動き始めた(つまり、古くて浅い地下鉄ほど復旧が早かった)ことを知り、朝の6時頃、歩いて渋谷へ向かいました。