緑の蛇

先輩の粂川光樹さんの御遺族から、葉書を頂きました。訃報は出版社のツイッター等で知っていたのですが、奥様の後を追うように、同じ年のうちに亡くなったのだということを知りました。

40年以上前、横浜のフェリス女学院大学の講師室でお会いして、粂川さんがシンガポールへ赴任されるまでの4年間、楽しくお喋りしました(いま思えば、若い頃、非常勤先で御一緒したおつきあいのあれこれは、たいへん貴重なものでした)。その後何かで帰国された時にも、楽しい会話をしましたが、彼地の生活は如何ですかと訊いたところ、「台所に置いたゴキブリホイホイに蛇がかかりますよ、緑色の小さな蛇」と言われたので、吃驚しました。それより10年前くらいに東南アジアを歴訪した際、green snakeと呼ぶ小さな蛇は猛毒で怖い、噛まれたら即死もあり得る、と聞かされていたからです。粂川さんは、平然と、毒があるそうですね、と言っておられました。

おしゃれな方でした。シンポジウムの司会をしながら、ポケットから櫛を取り出して、入念に髪を撫で上げ、澄まして話の穂を継がれた時も吃驚させられました。2年くらい前だったでしょうか、近所のバス停でばったり出くわし、体格も縮まず、老人には見えなかったことにまたまた感心したのですが、それが最後になりました。

改めて調べたら、上代文学研究だけでなく、直木賞候補になったり、漱石の遺作の書き継ぎをしてみたり、だったのですね。もっといろんなお話を聞いておけばよかったと思います。合掌。