会津八一

村尾誠一さんの『会津八一』(笠間書院 コレクション日本歌人選68)という本が出ました。このシリーズは、各冊120頁前後のコンパクトな本で、1人の歌人の詠50首を取り上げ、1首ずつ見開き2頁で解説するという形式を採っています。通勤や旅行に携行して読むのに便利、つまり、ごく身近かに和歌を置いて貰おうという狙いの本造りです。本来中世和歌が専門の村尾さんも、その企図に応えて解説しています。

会津八一は、一時代の日本人の郷愁を代表するような歌人で、平仮名書きで奈良の古寺を歌う独特の作品群は、和辻哲郎『古寺巡礼』や入江泰吉の写真集と共に、多くの人に愛誦されたものでした。亡父もその書と歌とを愛好していましたし、私も文庫本の歌集を買って、家事の合間に1首ずつ読んでいたのですが、一昨年、親の蔵書と一緒に処分してしまったようで、書架に見つかりません。本書は50首限定なので、何だか見覚えのある歌が少ないような気がしますが、それは著者の意図した選歌なのでしょうね。

ただ配列を題材別にしたのは疑問です。やはり詠じた年代順にして欲しかったし、巻末の「歌人略伝」と「略年譜」とがほぼ重複しているのも残念。何故なら彼の生きた時代は、日本人の古代・古都・寺仏への感性が大きく揺さぶられた時期だったからです。もはや現代の読者の多くにとっては、あの時代の雰囲気は、解説なしには理解出来ない距離を隔ててしまった、と痛感するこの頃です。

もう一つ欲を言えば、彼の書で、平仮名書きの短歌を掲げて欲しかったということですが、口絵1枚を入れるのは不可能だったのでしょうか。