赤髪の看護師

一度会ったきりで、忘れられない人があるものです。都立定時制高校の教諭だった頃(40年前)のこと。その高校は男子生徒の半数は自衛隊員で、女子生徒の大半は准看護師(昼は病院などで看護業務を務め、定時制4年間で必要な単位を揃えれば正看護師になれる)でした。勤務が大変らしく、なかなか予習復習はできないようでしたが、通学態度は真面目なので、教師側は比較的楽でした。

事情があって学年途中でクラス担任になった際、ずっと欠席している女子生徒(准看です)がいて、呼び出しをかけました。何回も連絡した挙句、やっと本人が現れたのですが、髪は赤く脱色してちりちりにパーマをかけ、つまり全日制生徒だったら校門を通れないような格好で、やって来たのです。ともかく話を聞きました。

重い口を開いて語ったのは―どんなに手を尽くしても、亡くなる患者さんというのがある、つらい。暫く看護師を辞めてみたい。勤務先と高校とは提携しているので、病院を辞めるには学校も辞めなくてはならない。でも、いつかきっと、看護師にはなる。

私はOKを出し、退学手続きをしました。暫く何をするのか訊いたら、喫茶店で働く、との答えでした。赤い髪は、今までの世界からはみ出したい、というサインだったのでしょう。職員会議ではなぜ引き留めなかったのか、と責められましたが、彼女の「いつかきっと」は、自分自身に誓った言葉だと聞こえたので、私は言いませんでした(職場と学校がきっちり繋がっている別の定時制高校でも、いちど辞めてみたい、と言いに来た男子生徒を黙って出したことがあります。高校段階では、本人に道を選ばせるのも教育の一つだからです。当時の都立定時制は、定員割れすれすれだったので、本人が望めばいつでも復学できました)。

あの子はどうしたでしょうか。今では看護帽とヘアスタイルがつり合っているかしら。