中世の女房

松薗斉さんの『中世禁裏女房の研究』(思文閣出版)という本が出ました。550頁近い、持ち重りのする本です。装幀は瀟洒ですが、中身はびっしり。序章「中世の内裏女房を理解するために」から始まって、1内侍の職務と補任 2中世の内侍の復元 3大納言典侍の成立 4室町時代の禁裏女房 5戦国時代の上級女房 6戦国時代の下級女房 7伏見宮家の女房たち 8『看聞日記』に見える尼と尼寺 9中世の女房と日記 10『御湯殿上日記』の成立 といった章立てになっており、「天皇別女房一覧表」が付載されています。

大量の漢文日記・仮名日記などから丹念に情報を拾い、考証した結果ですから、その精力的な作業に脱帽(しかも松薗さんは遊び上手でもあり、海外へ、音楽の鑑賞・演奏両方の目的で出かけたりもしている)するしかありません。以前、原稿をお願いした際、読者対象にはやや難しすぎる内容が含まれていて、メールで当惑の念を伝えたところ、一晩で書き直して下さり、感激したこともあります。

そもそも学生時代に、文学史で中世の女房日記を習ったとき、平安の宮廷と同じ感覚で想像していいのだろうか?と疑問に思ったものです。外では世界が変わっているのに、宮廷内でも男性貴族はその変化に振り回されているのに、女房日記をぼんやり読めば、まるで平安時代そのままに見える。本書は堀河天皇から称光天皇まで、歴代の宮廷女房たちを洗い出し、その制度的変化を指摘し、見えにくい宮廷内の推移を把握しようとしています。

その網羅的姿勢に感服して、これなら最後は岩佐美代子さんに逢着せざるを得ないなあ、と思いながら「あとがき」を読んだら、何とこの本は、岩佐さんと恩師川添昭二氏とに捧げられていたのでした。卒論当時の思い出には、思わず微苦笑。