軍記・語り物研究会大会2022

例年、夏の終わりに2日間開かれる軍記・語り物研究会の大会、今年はオンラインで1日だけの開催になりました。研究発表の申し込みがなく(このことは運営上最も深刻な問題のはずですが)、牧野和夫さんの「延慶本奥書[『平家物語』]と「良含」「円海」「遍融」他」も含め、高橋秀樹さん「『吾妻鏡』について実証的に考える」、坂井孝一さん「北条義時の軌跡」と、講演3本のような構成になりました。

牧野さんは永年追究してきた僧侶たちの交流、宗派を超えたネットワークの事例について、レジュメ24枚の前半を述べ、従来は平家物語の思想的背景の中心に浄土宗を置いてきたが、延慶本書写の頃には律宗とも関わる流れの中で考えるべきだと主張しました。取り上げた記事は源平盛衰記にも共通し、現存延慶本のみの問題ではない、そういう眼で関連資料を読まなければならないとのこと。司会の久保勇さんが上手くまとめていました。

高橋秀樹さんは吾妻鏡の諸本研究の必要性から説き起こし、原史料の見分け方、編纂方法の推定、そして平家物語を参照したかどうかについて、きっちり持ち時間内で分かりやすく説明し、私は胸のすく思いがしました。吾妻鏡を読むと、その著述態度にはばらつきがあり、単なる記録集ではないことは一目瞭然ながら、編纂方法や現存本文の背後事情などを明快に解明する研究にはなかなか出会えませんでしたが、ようやくその時機が来たのです。吾妻鏡源平盛衰記は、ひょっとして家康の公刊事業が本文を決定し、私たちはその傘の下で「中世を読んでいる」つもりになっていたのかも知れない、と思いました。

坂井孝一さんは大河ドラマ監修の裏話を交えながら、史料を読み解くだけでなく生きた人間たちの関わり合った歴史を再構築したいという立場。脚本作家は戦国時代や近世の武士社会をイメージしがちで、平安末期の京・坂東と武者との関わりを意識して貰った由。