石蕗

石蕗の花が咲き始めました。東京では日本庭園の置石の裾に植え込んだりしますが、九州では山に自生し、茎を食用にします。庭にもよく植えてあります。親族の話では、河豚の解毒剤になるので、植えておくのだとか。

かつて下関や博多では、魚屋で買った河豚を家でさばいて食べていたので、中毒話は身近にありました。法事で叔母の家に行き、ふぐちりをつつきながら、「夜中に隣室でどたんばたんと音がする。ばあちゃん、どうしたね?と声をかけたが、夫婦とも足が立たず、起きられない。夕飯に河豚を食べなかった子供たちは何ともなかったので、医者を呼びに行かせた」(河豚に当たると足がしびれて立てなくなるのです)という話をたっぷり聞かされ、「さっきから椎茸ばっかり食べよるやないね」と怒られました。

河豚料理は、薄造りの刺身を有田焼の大皿に並べ、色絵が透けて見えるのを片端からポン酢と博多葱で食べるのが最高です。その次がちり鍋、鰭酒・・・毒のある肝を好んで2人前食し、亡くなった歌舞伎俳優がありました。

父は生前、河豚料理の名店によくお客を招いたようですが、食べ慣れない客の不安を除くためにわざと中毒の話を出し、「ここの店は大丈夫だろうな」と冗談を言ったところ、女将がにこりともしないで、「お客さんの命より、うちの暖簾の方が大事です」と答えた(これ以上の品質保証はない)ので、ぐうの音も出なかった、と言っていました。

きりっとしまって咲く菊とは違って、やや大ぶりにゆるめの花弁を開く石蕗は、初冬を告げる花です。鳥取大学の正門脇に群落があって、この時季、永い冬の覚悟を問うかのように、黄金の花冠を捧げていたのを思い出します。