読書会

岩波文庫の『西行全歌集』(久保田淳・吉野朋美校注)が2013年12月刊行以来、すでに10刷となり、一部改訂を加えたとのことです。拾遺歌を4首増補し、『山家集』の注に参考歌が増えました。さすが西行の人気は大したものです。文庫本で全歌集、という便利さも人気の秘訣でしょう。

学部を出てすぐ会社員になりましたが、学部の同級生に声をかけて読書会を3つ、作りました。訓詁注釈を叩き込まれた(それがいかに貴重な教育であったかは、いま身にしみて有難く思っています)学部4年間、果たして自分たちは「文学」を学んだのか、という疑問を引きずっていたからです。教師の指導から自由になって、もっと「文学」に近づきたい、そう思って、物語史と西行と、そして近代文学の読書会を起ち上げ、仕事帰りに集まって、発表と討論をやろうとしたのです。

近代文学の会は出入り自由にしたので、発足当初は大人数(尤も、学科1学年は二十数名)でしたが、みんな婚活に忙しくなり、1年も経たずに雲散霧消しました。物語史は3名、『山家集』はそれにもう1名加わって4名、みんな異なる職場でしたが、月1回、お茶の水駅前の音楽喫茶などでこつこつ読み進めました。

当時、『山家集』の全注釈は手に入らず、窪田章一郎氏の本を参考に、朝日全書で通読し、歌集とはこういうものなのかということを理解しました。殊に配列のしかたや同想の作(しかし微妙に言葉がちがう)の多さなど、通読して初めて分かることでした。

それゆえ、西行は、何となく旧知の間柄のような気になります。在俗時代は、名門とはいえ一介の北面武士だった彼が、隠者になってどの程度、ときの権力者や知識人に影響力を持ち得たのか、分かりかねる部分もありますが、平家の時代を考える上では、避けて通れない人物です。