宙船

11年前、特急で1時間かかる所に住んでいる人の終末を見守りました。いろいろむつかしい事情があって、その上入院した病院の態度がひどく、つらい見守りでした。できればここから逃げ出したいと思う気持ちと、何とかして事態を好転させられないかと願う気持ちの葛藤で、消耗しきっていました。

闘病はけっきょく、本人の持つ体力と意志、それにプラス医学の支援です。私に出来ることは殆ど無く、ともすれば逃げ腰の医療関係者の言い訳に利用されそうで、そのこと自体に参ってしまいそうでした。ある晩、TVから流れてきた楽曲が耳に留まりました。

 その舟を漕いでゆけ、おまえの手で漕いでゆけ

 おまえが消えて喜ぶ者に おまえのオールを任せるな

私のために歌われている、と一瞬思いました。「おまえが消えて喜ぶ者」は私でもあるかもしれない、けれど「その舟を漕いでいけ」と必死に声援を送っているのも私でした。知人にこの話をしたら、面倒見るのを嫌がっていると誤解されました。

まもなく命日がやって来ます。見送った後では、「翼をください」を捧げたいと思うようになりました。「宙船」は難しい歌で、中島みゆき自身も巧く歌っているとは言えません。しかしあの時は、がしゃがしゃと怒鳴っている男の子たち(もう30代だったのですが)の歌がしっくり来たのです。混声合唱バージョンでも聴きましたが、編曲次第、歌手次第でもっといい歌い方ができる曲ではないかと思っています。

そして―こんないい仕事を貰っていたのに、何をやっているんだ!と、あの四十男たちを叱りたい。