朝比奈という勇将

岩城賢太郎さんの「「朝比奈」という勇将―狂言〈朝比奈〉のシテ造型と近世期への展開―」(「武蔵野大学能楽資料センター紀要」29号)を読みました。狂言「朝比奈」から出発して、剛勇大力の朝比奈三郎義秀像が、ほぼ実像と見られる『吾妻鏡』記事の諸要素をもとに、どのように拡散、展開していくかを追っています。

力任せの門破り、甲冑の引きちぎり、背負う七つ道具、手に持つ大竹、鉄撮棒(かなさいぼう)、装束の紋章などを取り上げ、それらと朝比奈の関係が絵画や史料にどのように記録されているかをたどり、狂言の初期の演出はどうであったか、近世の歌舞伎にどう受け継がれたかを推測しています。源為朝や弁慶などの豪傑像と共通する点を指摘したりするところは、数年前、軍記物語の絵画資料を調査したときの経験と照らし合わせて肯けることが多く、興味ふかく読みました。

資料が多岐に亘るので、論文が長くなるのはやむを得ないかも知れませんが、もう少し整理して書くことも出来るのでは、という気もします。尤も、芸能について書く時は、未だ分からないこと、二者択一式に断定できないことが多いので、はしょらずに書いておくことが大事なのかも知れません。