シェフの冒険

宮古島からフレンチ・シェフがやって来ました。38年前に亡くなった親友の遺児(40代半ば)です。私が住む町の飲食店をあちこち見て歩きながら、よもやまの話をしました。公務員共済の宿にあるフレンチ・レストランの話をしたら、ぜひ入ってみたいと言うので、ディナーを食べに行きました。古くからある宿で、窓の外には沈丁花が咲き始めています。

案内されたテーブルのセッティングを見て、まず度肝を抜かれました。大きな黒い皿の割れた破片が、ランチョンマットの上に横たわっている。最初の料理は、ちぎったパンにオリーブオイルのスポイトが刺さったものが、その皿の破片の上に置かれました。おそるおそる食すと、やや甘い。

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ついで、マッシュポテトを蚕豆大にまとめて揚げたものが1粒、直径20cm以上ある鉢に入って出されましたーそれから魚2種、蝦夷鹿のソテーなど、どれも大きな白い皿の片隅にちょこんと載って出て来るので、思わず「余白の美ね」と口走ってしまいました。最後にマロンのアイスクリームが枯葉を敷いたグラスに入って出され、直径2cmくらいのマドレーヌやマカロンがデザートでした。美味しかったし、終わってみれば、心配したより満腹感もありました。

ここの料理長は未だ30代らしく、宮古島から来たシェフは、「あのくらいの時が、料理人としては旬。冒険もし、こだわりもあるんですよ。僕もそうだった」と、説明してくれました。食事後、彼は「職人魂に火がついた」と呟いて、夜道を駅へ向かって歩いていきました。