グリーンカーテン

菊坂を下りていくと、葡萄やあけびでグリーンカーテンを作っている家が1軒あります。今年は時計草も植えられ、初夏に花が咲き、いまは円い実がつやつや光りながら幾つも下がっています。よそながら豊かな眺めです。

店に出る葡萄は緑か紫一色ですが、自然に熟すと緑、海老茶、臙脂、紫とさまざまなグラデーションが美しく、色鉛筆で描いてみたくなり、見飽きません。尤もこの家では、晩秋に棚の上で乾葡萄になっている房の方が多いようです。

時計草は、オスカー・ワイルドの「幸福の王子」の中に、貧しいお針子が徹夜で刺繍しているドレスの模様として出てきます。子供の頃日本語で読み、高校の授業では原文で読まされました(名物教師でしたが、教科書は早く済ませてしまい、原文で各国の短編小説を読ませました。教育委員会には内緒だったようです。PODだのCODだのを引きました)。おかげでpassionには2通りの意味があり、英国では花心を時計の針でなく十字架に見立てて、受難の花と呼んでいることを知りました。それより以前、岩波の少年文庫で砂漠で迷子になった少年の冒険譚(もう題名を忘れてしまった)を愛読していましたが、地を這う時計草の実を食べて餓死を免れる場面が印象に残り、ずっとどんな味だろうと思っていました。市販のパッションフルーツソースは濃厚に甘い。あの家のグリーンカーテンの実も、まもなく色づき始めるでしょう。気にしながら、毎週通っています。