枇杷の実

かつて、店で売られる枇杷は一種の高級果物でした。季節が短くて傷みやすく、高価だったのです。坪田譲治に、巨大な枇杷の実に誘惑されて、一口囓ると口の中が甘い汁で一杯になり、また一口囓ると・・・という幻想的な童話があり、読むだけで涎が出そうでした。

橙色の果肉とセピア色の種の配色もいい。種は大きくてつやつやしており、播いてみたくなります(ちなみにアボガドやマンゴーの種も、実生を育ててみたくなる形をしています)。枇杷は播けば必ずすくすく育ちます。そうして庭や校庭の隅に生えた枇杷の木にはびっしりと実がなり、食べてみれば殆ど種だけなのですが、やはりわくわくさせられる、みごとさがあります。「ゆりかごの歌」の中に「ゆりかごの上に 枇杷の実がゆれるよ」という一節があって、子供ごころに、歌詞らしくない新鮮さを感じました。染付の大きな甕に、どさっと枝ごと活けてみたいと思います。

今はスーパーなどで手の届く値段になりました。種類によるのでしょうか、スマートな細身の実がよく出ています。でも枇杷はやっぱり、まるまるとしたヒップラインの充実感が欲しい。