源平闘諍録

早川厚一さんの「源平闘諍録全釈一二」(「名古屋学院大学論集」言語・文化篇28:2)を読みました。源平闘諍録の巻一上「仁安三年戊子三月二十日・・・」から王昭君説話の終わりまで、講談社学術文庫本『源平闘諍録』でいうと上巻p145~159の注釈です。早川さんはこつこつとこの作業を続けてこられ、ほかに四部合戦状本や源平盛衰記も異なるメンバーと共に全注釈を続けておられます。私の生あるうち、いやご本人の生あるうちに完結する見込みさえあやしいのですが、基礎的な作業として貴重なものです。

源平闘諍録は千葉一族を中心とする関東武士のために編集された平家物語と考えられ、変体漢文で書かれており、1337年の本奥書を持っています。読み本系諸本の一つですが巻立は現存諸本の6の倍数とは異なる仕立てだったらしく、しかも5冊しか残っていません。しばしば独自記事、もしくは固有名詞へのこだわり等、独特の改編が見られます。私は、もっと大部な平家物語からの略述本で、巻により略述や改編の方針が異なっていると考えています。一部に源平盛衰記と共通する性格もほの見えるのですが、長門切を補助線として考えると、その点にも説明がつくかもしれません。

これから、早川さんとそのグループの共同作業による「源平盛衰記全釈12」(「名古屋学院大学論集」人文・自然科学篇53:2)を、注釈をチェックしながら読む予定です。こちらは巻4(中世の文学『源平盛衰記(一)』ではp124~136)に当たります。