白描絵巻

櫻井陽子さん・鈴木裕子さん・渡邉裕美子さんの共著(校正は鶴巻由美さん)『平家公達草紙』(笠間書院)を読みました。平家公達草紙は白描絵巻の一部が残っている3種の掌編物語の断片ですが、この本は編者たちと編集者が楽しみながら作った本です。源氏物語の影響に注視しているのは重要な視点で、覚一本平家物語以降の読者には作り物語の源氏物語と歴史文学の平家物語を別ジャンルとする制約はなかったでしょう。

この作品には謎が多く、本書の編者たちは平家物語の読者が創作した二次的物語と推定していますが、未だほかにも考える余地はありそうです。岩波文庫翻刻があります。

白描絵巻はわざと彩色しない絵巻です。この絵巻も原本は白地に墨の線書きが美しく、殊に女性の黒髪と衣装の流れるような描線の白黒のコントラストには、思わずはっとさせられます。惜しむらくは普通紙の影印だとその鮮やかさが出ないこと。絵の部分だけでも(できれば詞書も)白地に浮かび上がるような印刷をした方がよかったのでは。技術的には可能だと思いますが、コスト面で無理だったのでしょうか。

平家物語自体の白描絵巻も残欠ですが現存しています。静嘉堂文庫美術館京都国立博物館などに分蔵されているので、展示されたら一見をお奨めします。