源平合戦図屏風の諸本

伊藤悦子さんの論文「「源平合戦図屏風(一の谷・屋島合戦図屏風)」諸本の改変方法と関連資料ー『平治物語絵巻』や「平家物語扇面絵」などー」(「國學院雑誌」4月号)を読みました(この長すぎる論文名、何とかならなかったのか)。力作です。絵画資料は一部にせよ、近似した構図やモチーフを共有しているのが通例で、それらを網羅して分類したり、関係性を究明したりするのは至難の業ですが、やらなければ先へは進めません。

本論文は36点の源平合戦図屏風を、先行研究を参考にしつつ分類し、さらに相互の関係を究明するための手掛かりとなる共通点や、粉本の影響を探ろうとしています。これまでも試みられながらなかなか深化しなかった、必須の基礎的作業に取り組む、その勇気をまず買いたいと思います。未だ網の目は粗いが、今後、作業を進行させるための提案として、各方面からの批判や助言、各自の試行を期待したいものです。

同誌には吉海直人さんの論文「『源氏物語』「疑ひなき儲けの君」考」や、中村正明さんの「天明期の春町作黄表紙と南畝」も載っています。中村さんの論文は、恋川春町と太田南畝の交友関係を推測しようとしたもの。この2人の交際や、狂歌で有名な南畝も黄表紙を書いたこと、春町が平家物語を下敷きに黄表紙を創作したことなど、蒙を啓かれました。近世文学史は学部時代に学び、一応、古典大系に入っている作品にも全部目を通しましたが、俳諧近松以外は面白いと思えませんでした。院生時代に『国書総目録』のアルバイトで書誌調査を請け負いましたが、シリーズ物の草双紙には手間がかかるので嬉しくなかった覚えがあります。その後は講義の予習で評論を読むくらいで、遠ざかっていましたが、今やっと、どの時代の文学とも自由なつきあいができるようになりました。