仁風閣

人気の聖地巡礼の一つに、鳥取の仁風閣が入っていることを新聞紙上で知って意外でした。2011年に撮影された映画「るろうに剣心」の舞台に使われた由。原作は漫画、TVアニメもあったそうですが、何年か前に映画がTV放映され、流行作品だとは知っていたので視てはみたものの、仁風閣が舞台だとは知りませんでした。何故なら私の知っている仁風閣は、あかるく開けた、爽やかな洋館の庭園で、おどろおどろしい、非現実的なストーリーや人物(殊に、登場人物たちのわざとらしい「ござるよ」言葉は実写にすると噴飯もの)からは全く懸け離れていたからです。

雨が多く、寒暖の厳しい鳥取では今の時季、つまり梅雨入り前の新緑の季節が、1年で最もいい時季です。久松山の麓、城跡の石垣が見える所に殆ど人影のない一角があって、芝生の庭と小さな池があり、余計な飾りのない、真っ白で硝子戸の多い洋館が建っています。明治40(1907)年、後の大正天皇が皇太子として行啓した折の御座所で、設計はコンドルの弟子片山東熊、命名東郷平八郎だったそうです。

屋内には不思議な螺旋階段があり、入館料(当時¥100)が必要でしたが、庭は無料。同僚たちは毎日出校していましたが、私は授業や会議のない日は狭いアパートに飽き、晴れていればこの庭で、研究仲間たちから送られてきた抜刷を読みました。必ず研究の正道を歩いて、彼らとわたり合えるようになってやる、との決意を懐いて。

爽やかな風と新緑の香りを思い出します。新聞写真には、あの白い鉄製の椅子と卓がそのまま写っていて、すぐにでも座りたくなりました。ある秋晴れの日ー読み終えた抜刷の束を手に出ようとした門前で、学生課の職員に出くわしました。入学案内の写真撮影に来たとか。こんな所で何してるんですか、と詰問されました。