蜜蜂の記憶

蜜蜂にも記憶があるのでしょうか。ここ数日、晴れた日の昼前には、我が家のベランダを、しきりに捜し物でもするように飛び回る1匹がいます。そう、例年ならば小菊がいろいろ咲き乱れている時季なのですが、今年は未だ蕾が出たばかり。やっと萼の縞模様が光って見え始めたくらいです。台風の塩害にやられた葉が痛々しい。これでは冬の来る前に、蕾全部は咲ききれないかもしれません。ごめんね、未だなんだよ、と言ってやるしかない。

すでに石榴の黄葉が散り始め、夜は観葉植物を室内に取り込む気温になりました。我が家の大島桜は、鉢が小さすぎ、早くもすっかり落葉しましたが、街の桜紅葉は未だ始まっていません。今年は何かと季節がちぐはぐです。小春日和には、菊の花をせわしく訪れる蜂の羽音を聞きながら新聞を読み、時にはうとうとするという、理想的な老後の日々は今年は望めないようです(私の方も逐われる仕事があって、落ち着きません)。

春先には庭薺やムスカリのような小さい花に、小さな虻が群がってかすかな羽音を立て、梔子の咲く頃には、熊蜂がやってきます。熊蜂は肉食ではないそうですが、戦車のような威圧感ある姿と低音の羽音には、思わずひるんでしまいます。つきまとう蜂をとりあえず追い払うには口笛を吹くのがいい、とは中世以来の知恵(口笛を吹くことを古典語では「うそを吹く」と言います)。何故かは分かりませんが覿面です。

近所の寺の六地蔵にお供えしておいた菊の鉢は、跡形もなく枯れていました。仕方なく鉢だけ引き取ってきましたが、今年は我が家に咲いた菊を片端から剪って、お供えしに行こうかと思っています。