流布本保元平治物語

小井土守敏・滝沢みか編『流布本保元物語平治物語』(武蔵野書院)という本が出ました。小井土さんの所蔵する貞享2年版絵入保元物語平治物語翻刻、略注を付け、滝沢さんが解説を書いて、講読用テキストとして出したものです。

底本の挿絵写真も綺麗に入っています。かつて私も、軍記物語はもっと流布本で読まれて然るべきだと考え、平家物語の絵入版本を、注なしで(注や現代語訳は、ときには通読の妨げになることもある)読めるように作れないか、と試行してみたことがありました。しかし近世の版本の挿絵は、必ずしもストーリー展開の要所を抽出してはいないことが判って、断念した経験があります。

本書を使って、講読や演習、輪読会などがあちこちで盛んになることを期待します。平家物語前夜こそ、ドラマティックな武士の物語が継起した時代だったからです。

なお保元物語の冒頭、「それ易に曰く・・・」以下の頭注に「典拠不明」とありますが、すでに信太周さんが『易経』にあることを指摘しています(「注釈談義」『保元物語の形成』汲古書院 1997)。私も似たような表現が複数箇所『易経』にあることは指摘したのですが(「流布本保元物語の世界」同書)、肝心の該当本文を見落とし、後日『軍記物語原論』(笠間書院 2008)で補正しました。

解説についてはこれで満足せず、もっと広い視野を獲得した時点で、さらに練れた文章を書くことを模索して欲しいと思います。殊に保元物語の作品論では、原水民樹さんの書き溜めた論考がまとまって世に問われ、その上で新たな展開があることを、一日千秋の思いで待っているのは、私だけではないでしょう。